ふぐに合う薬味・調味料

下関周辺にはふぐを食べるためにあるような様々な食材が存在しています。
「ふぐ食文化の本場」と呼ばれるようになった下関で、先人たちがあれこれと試した結果定着した、ふぐの味をより引き立ててくれる代表的な薬味・調味料をご紹介いたします。

ぽん酢

ぽん酢

ふぐを食べる上で欠かせない調味料のひとつが「ぽん酢」です。
その名は、オランダ語で蒸留酒に果汁を加えたカクテルを意味する「pons」に由来しています。

日本では、本来は柑橘系の果汁からつくった酢のことを指しますが、それと醤油をあわせて、さらにカツオだしや昆布だしも入れた「ぽん酢醤油(味付けぽん酢)」のことも総じて「ぽん酢」と呼ばれています。地域によってその地特産の柑橘類を使ったぽん酢が存在しています。

山口県では萩市を中心にナツダイダイ(「夏みかん」は商品名)が多く栽培されたため、これを原料にしたぽん酢がふぐ料理に使用されるようになりました。
ただし夏みかんは春になると橙色になり甘味が増すので、あえて酸味の強い冬季に絞って原料にしています。

全国的には、カボスやスダチを原料としたぽん酢も広くふぐ料理に用いられていますが、柑橘系ぽん酢としてはポピュラーな柚子ぽん酢は、ユズの香りが強すぎるのか、好んでふぐ料理には使用されていません。

ふぐ刺しやふぐ皮刺しを食べるときは、ぽん酢とお好みで「もみじおろし」や「小ネギ」を入れ、ふぐちり鍋のときは、タレのようにかけていただきます。ふぐ料理にとって、なくてはならない調味料が「ぽん酢」なのです。

ふぐは淡白で繊細な味わいが特徴の食材なので、醤油の塩味や柑橘の酸味が主張しすぎるものはふさわしくありません。
「ふぐ刺しはぽん酢の味で食べるもの」という声を耳にすることもありますが、適度に〆てしっかり旨みを引き出したふぐの刺身は、何も付けないでそのまま食べても美味しく、さらにぽん酢の力で極上の味へと昇華するのです。

小ネギ(ふくねぎ・安岡ねぎ)

小ネギ(ふくねぎ・安岡ねぎ)

「ふくねぎ」「安岡ねぎ」とも呼ばれ、JA下関小ネギ部会によって主に下関市安岡の福江・横野地区でハウス栽培されている特別細い小ネギです。
極細でやわらかく、香りが良いのにくせがないため、繊細な味わいのふぐ料理に最も合うネギだと重宝されています。
九条ネギを品種改良した青ネギの一種で、アサツキと混同されることもありますが別種です。

長さ約30cm、太さ1~2mmほどまでまる1年かけて成長したものが束にされ、市場に出荷されます。

東京中央卸売市場(築地市場)では青果市場ではなく魚市場で取り扱われているほど、ふぐとは切っても切れない関係の小ネギと言えます。
風味と高い品質から、おそらくネギの中ではもっとも高価な部類に入るのではないでしょうか。

ふぐ料理では刺身や鍋の際ぽん酢に入れる薬味として使用されるほか、約3cmの長さに切り揃えた「寸ネギ」と呼ばれる状態のネギにふぐ刺しを巻いて食べるのが一般的です。
トラフグの腸は現在不可食部位となっていますが、以前はとらふぐの腸に寸ネギを詰めて珍味として食べられていたこともあります。

日本各地には様々な小ネギが存在していますが、下関でしか栽培されていないこの小ネギ(ふくねぎ・安岡ねぎ)は最細であることから、繊細な味のふぐ料理にはなくてはならない名脇役として愛されています。
下関のふぐ仲卸が各地の料理店にみがきふぐを出荷する際にはこのネギを同梱して発送するほど、料理人からも定評があるネギです。

もみじおろし

もみじおろし

大根に箸などで穴を開けて唐辛子を詰めてからすりおろしたものが「もみじおろし」です。土地や店によっては、唐辛子を塩漬けにした「赤おろし」と大根おろしを混ぜて作る場合もあります。
ふぐ刺しやふぐちり鍋の薬味として、お好みでぽん酢に入れていただきます。

中には「ふぐは毒で舌がピリピリするくらいが美味しい」とおっしゃる方がいるそうですが、恐らくそれはもみじおろしの使い過ぎかもしれません。

下関の仲卸で、ふぐ調理免許を所持する職人によってみがき加工(除毒)されたとらふぐの刺身やちりの身に毒があるはずはなく、また本当にピリピリと感じるようであれば、その時はもう既に危ない状態になっています。

もみじおろしのピリっとした辛さとふぐ毒を混同しないよう、美味しいふぐ料理を楽しんでいただきたいですね。

ナツダイダイ(夏みかん)

ナツダイダイ(夏みかん)

山口県萩市で多く栽培されている柑橘類です。一般的には「夏みかん」という名称で広く知れ渡っていますが、本来は「夏代々(なつだいだい)」と呼ばれています。(山口県では普通にダイダイと呼ぶ人が多いものの、ダイダイとナツダイダイは別種です。)

晩秋の頃色づきますが、春先までは酸味が強いため酢の代用品として用いられていました。初夏になると甘みが増し、夏に食べられる柑橘類として栽培されるようになったのです。

江戸時代中期、山口県長門市青海島に流れ着いた柑橘の種をまき育てたのが起源とされ、萩市の隣・長門市に現存している原樹は1927(昭和2)年に国の天然記念物に指定されています。

明治初期、萩藩において失職した武士への救済措置としてナツダイダイの栽培が奨励され、現在でも萩を訪れると当時植えられたナツダイダイの木が萩市内の武家屋敷に多く残っているのが見られます。
萩の武士たちは「これからも末永く代々(ダイダイ)家が続くように」という願いを込めて栽培していたそうです。

ナツダイダイはぽん酢の原料として用いられるほか、ふぐ料理を食べる際にも櫛切りにして供されることもあります。
お好みでぽん酢に絞り入れていただくと、ナツダイダイ特有のやわらかな香りとほのかな甘みが広がり、一層ふぐ料理を美味しくいただけます。

しかし近年、ナツダイダイの需要が減少し、農家から市場への出荷量も減少傾向にあります。
当店でも一部セット商品には「ナツダイダイ」を付属するのを基本としておりますが、入手が困難な時期には最も風味の近い大分県の「カボス」をお付けさせていただいています。

なお、セット商品に付属や販売している「ふくポン酢」につきましては、通年通して原料にナツダイダイを使用しています。

ローマ(ローマ菜)

ローマ(ローマ菜)

下関でふぐちりに入れる野菜は、「ローマ」と呼ばれる大葉春菊の一種です。
下関ではポピュラーな野菜であるものの、全国的に見るとかなり限定的で特殊かもしれません。
下関市と北九州市小倉南区のみで生産されていて、特に北九州市小倉南区で大部分が生産されています。

ローマという名称は、春菊の原産がヨーロッパの地中海地方であるということ、イタリアから種が輸入されたためこの名で呼ばれるようになったそうです。
北九州市での商品名は「大葉春菊」のようですが、下関のスーパーなどではローマとして販売されています。しかし、近年下関市内であっても若い世代にはローマで通じなくなってきていると嘆く声も聞かれます。

ローマの香りは弱めで、青梗菜のように丸くやわらかい葉には春菊特有のエグ味がなく、生でも食べることができることが特徴です。見た目も味も一般的な春菊とは異なるため、容易に判別が可能です。

柔らかく薄い葉のため、鍋に入れる際はしゃぶしゃぶの要領で火を通し引き上げていただきます。あっさりとしていてふぐの味を邪魔せず、鮮やかな緑が鍋に彩りを添えてくれる点が、ふぐの本場・下関で好まれている理由なのではないでしょうか。