沢山の種類があるふぐ刺しの盛りつけ方
下関では、ふぐ刺しは直径30~50cmもある有田焼の大皿に盛り付けていただくのが普通です。盛り付け方は、刺身をできるだけ薄く引いて(ふぐ刺しの場合、刺身のさくを“切る”ではなく“引く”といいます)並べる方法と、少し厚めに引いてもう一度切り開いて並べる「二枚引き」という方法があります。
薄く引いた刺身は、縁を立たせて菊の花のように美しく盛り付ける「菊盛」にするのが一般的です。
二枚引きの刺身は一切れの面積が大きくなるため、牡丹の花びらに見たてて盛り付ける「牡丹盛」が一般的です。
ふぐ刺しは、料理人(職人)が持てる技術をふるい、客は舌だけでなく目でもふぐを味わうことができる味の芸術品です。実際にはほとんどお目にかかることはありませんが、「鶴盛」「肥後盛」「玉盛」などの技巧を凝らした美しい飾り盛も多く考案されています。
当店では店舗でも通販でも「菊盛」でご提供しています。お皿の縁に皮刺しを盛り込む場合は、刺身は扇を開いた形に見立てた「扇盛」にてご提供しております。
ふぐ刺しを食べるのは外側から?それとも内側から?
ふぐ刺しを菊盛にする場合、皿の外側から円を描くように盛って行きます。少しずつ重ねながら一周、二周、三周…と繰り返し、皿の中心が頂点になるように盛りつけていきます。
一般的に箸をつけるのは「上」からで、「下」のほうからほじくっていただくようなことはありません。ふぐ刺しも「上」となる中央からいただくのが正しい食べ方です。
しかし、複数人で大皿を囲んでいただく場合は中央から手をつけるのはためらってしまうのも事実。また、刺身は外側から引いているため空気にさらされている時間が内側より長くなっているため、乾燥を避けるためにも外側からいただくのは理にかなっています。
では、正しいのはどちら?と聞かれると、当店では内側からいただくのが正しい食べ方ですが、外側からいただくのも理由がないわけではないとお答えしています。
このような「内」か「外」かの論争は昔からなされていましたが、これも本場・下関ならではのふく食文化といえるのではないでしょうか。
もってのほかのふぐ刺しの食べ方とは?
刺身は薄いので1枚ずつではなく2~3枚を一緒に、添えてあるネギやお好みの薬味とともにポン酢でいただくと、よりふぐの歯ごたえと深い旨味をお楽しみいただけます。
テレビで見る、箸を横滑りさせてザザザっと一気に何枚もの刺身をすくい上げて食べる、いわゆる「長嶋食い(長嶋茂雄さんが初めて行ったことが起源とされる)」は文化も品位もない、もってのほかの食べ方であることは是非知っておいて欲しいものです。
ふぐの味を存分に堪能できる「ふぐちり」とは
下関で「ふぐちり」とは、有毒部位を除いた「みがき」から刺身にする「さく」を取った後の、骨付きの身を野菜と一緒に煮ていただく鍋料理のことです。高価なふぐの旨味を存分に味わえる上、余すことなく食べ尽くせる料理です。
鍋に入れる部位は主に頭、口、中骨、カマ(いわゆるアラとはこれらを総称したもの)が中心ですが、それでは物足りないとぶつ切りの身の部分も入れるのが最近の主流になっています。
もともと、ちり鍋という食べ方は西日本を中心に広がり、東京にはふぐ刺の後に広まったようです。
下関老舗ふぐ問屋直伝!「ふぐちり」の美味しい作り方
下関で最古参のふぐ問屋である、酒井商店より「ふぐちり」をより美味くいただける作り方をご紹介いたします。
1)昆布を入れた鍋を十分沸騰させます
2)ぶつ切りの身にさっと熱を通してぷりぷりの食感を楽しんだあと、アラを順次入れてしっかり煮ます(このとき灰汁(あく)が出ますので、丁寧に取り除いてください)。
3)野菜や豆腐を煮えにくいものから順に入れ、煮立ってからお召し上がりください。
骨の周りの旨味の詰まったふぐの身を歯でこそげながらいただくのは無上の喜びです。
薬味は刺身と同じで、小ねぎ・もみじおろしを入れたポン酢でいただいてください。
口の部分(さえずりといったりします)はコラーゲンたっぷりで、身とは違うくにゅくにゅした独特の食感がお楽しみいただけます。
豆腐も野菜もふぐのアラから溶け出した出汁が染みて、とても奥深い上品な味になっています。
このふぐ出汁と野菜の旨みが絡み合ったスープを飲み干したくなるは当然ではありますが、そこはグッと我慢です。このあとでこの絶品スープを使って〆の雑炊を作るからです。
別腹「ふぐ雑炊」の美味しい作り方
ちり鍋をあらかた食べつくしたら、いよいよお楽しみの「ふぐ雑炊」作りです。
1)鍋に残った豆腐や野菜の切れ端などを取り除き、スープを改めて沸騰させます。
2)流水でぬめりを取ったご飯をスープに入れて煮ます。
3)煮立ったら溶き卵を流し入れひと煮立ちさせ、火を止めてから小ねぎを散らして完成です。
「ちり」を上手に煮て美味しいスープを作れば、ふぐの旨味が凝縮した極上のふぐ雑炊が待っています。どれだけ満腹でもこれだけは別腹と言う方が多いのも頷ける美味しさです。
様々なバリエーションが楽しめる「ふぐちり」
昔はちりの途中から味噌を入れることもあったようですが、近年はあまり聞きません。
どんな味わいなのかと、実際に当店でも味噌風味ちり鍋と、キムチ風味ちり鍋を試食しましたが、また違った味わいを楽しむことができました。
下関で鍋に入れる具材として一般的なのは、豆腐・白菜・しいたけ・えのき・ローマ*などです。
各地域や店によって入れる具材に違いがあり、東京では野菜は春菊だけといったお店もあります。また春雨や餅、うどん、麩などを入れているお店もあるようです。
鍋は数人で囲んでいただくものですので、あまり堅く考えず様々な具を美味しいふぐ出汁とともに楽しむつもりで、お気軽にふぐちりをお召し上がりください。
- *ローマとは…
- 山口県で一般的に食べられているキク科の大葉春菊のことです。
ローマ菜。香りは弱めで、葉は青梗菜のように丸くやわらかいため、一般的な春菊とは容易に判別が可能です。
イタリアから種が輸入されたためこの名で呼ばれるようになったそうです。
近年ふぐ料理コースに加わった「ふぐの唐揚げ」
ふぐ(トラフグ)のコース料理といえば、ふぐ刺し・ふぐちり・ふぐ雑炊がオーソドックスですが、近年新しくコースに加わったのが「ふぐの唐揚げ」です。
いつごろから食べられていたのかははっきりわかりませんが、当店が覚えている限りでは半世紀近く前にはなかったように思います。
ふぐ一匹を余すことなく上手に料理して食べるふぐ料理のコースでは、新しいメニューを加えることは他の料理に使う素材を割いて唐揚げ用に回す必要があるため、昔は積極的に取り入れられなかったのかもしれません。
ふぐの唐揚げが人気になった理由
そんなふぐの唐揚げが近年人気になった理由としては、ふぐ料理はあっさりしたものが多く若者には物足りなかったので、和食のコースの揚げ物にならって取り入れたのだろうと推測されます。
身の部分を天ぷらにしたのではなく、刺身用のさくを取ったあとのアラ部分を香ばしい唐揚げにすることで提供する側にとっては原価を抑えられ、消費者にはリーズナブルさとコース内における味の変化が受け入れられたのではないでしょうか。
ふぐは他の魚のように「脂がのった」という表現がないため、油を使う揚げ物をコースに加えるのはバランスも良く新たなふぐ料理の幅も広がったのではないかと思います。
また、ふぐと合うお酒はこれまでは日本酒がメインでしたが、唐揚げが加わることによりカジュアルに楽しめるビールに合うと、人気に火がついたのではないでしょうか。
当店の「ふぐの唐揚げ」
先述のように、ふぐの唐揚げは本来骨のついたアラを用いるのが一般的です。しかし最近は「身の部分も唐揚げで食べたい!」というお客様のご要望から、当店でも身の部分もご提供しています。しかし少しお行儀は悪いですが、ふぐの唐揚げは直に手でつかんで骨付きの身をほおばるのが一番美味しいと思います。
当店スタッフの間では、カマ(下あごの部分)や口(別称クチバシ)の部分も美味しいと人気です。
当店がコースでお出しする唐揚げはよりザクっとした食感を楽しんでいただくために、小麦粉は使わず片栗粉をまぶして揚げています。味付けはせず、揚げたてに塩を付けていただくとふぐの唐揚げを最も美味しくお召し上がりいただけると思います。塩以外では少量のぽん酢を付けてお召し上がりになられる方もいらっしゃいます。
なお、市販のふぐの唐揚げは味付き唐揚げ粉をまぶしてあるのが一般的です。
トラフグ料理はトラフグで
ふぐ料理店の中には、刺身やちりはトラフグを使っているのに唐揚げだけはサバフグを使っているところもあるそうです。コース全体の価格を抑えるためだとは思いますが、せっかくトラフグのコースをいただいているのにこれは邪道です。
サバフグの唐揚げが悪いわけではありませんが、トラフグとはまったく別物なので、トラフグだけのコース料理を味わいたいという方はよくご注意ください。
ふぐの唐揚げとしては、サバフグであれ他の種類のふぐであれ美味しいです。特にマフグの唐揚げはトラフグと人気を二分しそうなくらいの美味しさです。ふぐの種類によって唐揚げを食べ比べてみるのもまた一興ではないでしょうか。
香ばしい風味に魅了される「ふぐのひれ酒」の美味しい作り方
料理とは言えないかもしれませんが、ふぐの「ひれ酒」もふぐを語るには、なくてはならないものです。
作り方には少しコツがいります。
1)乾燥したふぐひれをこんがりと火であぶり、あらかじめ温めておいた器に入る
2)熱々の熱燗を注いで蓋をし、1~2分くらい蒸らす
3)(お好みで)蓋を取るときにマッチなどで火をつけ、表面から立ち上るアルコール飛ばすとむせずに飲みやすくなります
気をつけるべき点は、ひれの焼き加減と燗酒の温度です。ひれは少し焦げ目がつくくらいしっかりとあぶってください。
当店では燗酒を80~85℃くらいで注ぎます。ご家庭では小鍋でお酒を温める際、気泡が生じて来たら焼きひれを入れた器に注いでください。熱いので、飲むときにはゆっくりとお楽しみください。
口をつける前に蒸らし終えたひれを引き上げておけば2杯目もお楽しみいただけます。
もちろん最後までひれがお酒に浸かったまま飲んでいただいても構いません。
ひれから香ばしいエキスがお酒に溶け込み、独特の風味を持ったふぐのひれ酒を、是非ご家庭でもお楽しみください。
ひれ酒に最適なお酒の種類は?
ひれ酒に使用するお酒は好みもありますが、当店では甘口のほうが美味しいとおすすめしております。純米酒や吟醸酒などの風味があるものは、ひれの香りと打ち消しあってもったいないような気がします。
しかしあくまでも好みの問題なのでいろいろなお酒でひれ酒を試してみてください。
以前、兵庫県の焼酎を作っている会社がひれ酒に最適な焼酎を開発したと、当店にお知らせくださいました。試飲してみるとなるほど、確かに悪くありません。しかしお客様はみなさん日本酒のほうがいいとおっしゃられたので、以降当店では日本酒のみでひれ酒を提供させていただいております。
トラフグの尻びれは白いのが特徴
ひれの毒性は皮に準じているため、全てのふぐがひれ酒用に使えるわけではありません。トラフグ以外のふぐで、ひれ酒として見かけることがあるのはサバフグのひれぐらいですが、その味わいはトラフグの比ではありません。
ひれ酒でもトラフグが味覚の王者として君臨しています。
トラフグのひれは、尾びれ・背びれ・尻びれ・胸びれ(×2)の4種5枚です。普通の魚には腹びれがあるのですが、ふぐにはありません。
当店は本来仲卸が本業で、トラフグは身欠き(みがき)として尾びれを切り離さず出荷しているため、残念ながら当店では尾びれのひれ酒はありません。
扇型をしたのが胸びれ、真っ黒なのが背びれ、白っぽいのが尻びれです。
ひれ酒を飲まれるときには、その形や色でどの部位のひれなのか、クイズのように当てながら飲んでみるのも楽しい時間を過ごせそうです。